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札幌地方裁判所 昭和43年(ワ)1022号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、被告ら(身元保証人)は原告に対し、原告が本件事故に基づき蒙つた損害につき身元保証の責に任ずるものというべきであるが、その賠償すべき金額をどのように定めるべきかにつき判断する。

<証拠>によると、右額を定めるにつき斟酌すべき事情として、次の事実が認められる。

(一) 訴外人は本件事故当日通常の勤務を終えた後夕方から警備員代務者として勤務中、その勤務を離れて本件事故を惹起したのであるところ、原告会社苗穂支店には専従の警備員が二名配属されていて日頃はその二名が夜間の警備に当つていたが、月に四回程度の専従警備員の休暇の際には右支店所属の作業員(積卸手)のうち日頃の勤務態度に問題のある者を除いてほぼ順填で夜間警備の代務をさせることととしており、訴外人も三月に一度位の割で従来数回この仕事に就いたことがある程度であつた。このように右の勤務は訴外人の本来の職務ではなく極めて稀にしかない臨時のものであつた。

(二) 右のとおり訴外人の右勤務は臨時のものであり、近所には酒食を提供する商店があつて訴外人はかなり頻繁にそこで飲食しておりかつ本件事故当夜も勤務を離れてそこで飲酒のうえ自動車を運転して本件事故に至つたのであるが、原告会社の右支店における管理者は訴外人その他警備員代務者に対し夜間の警備に当つての心得、就中その勤務時間中に職場を離れ、飲食に出かけることを厳に禁止するなどにつき、これを当然のこととして特に注意を与えることはしていなかつた。(警備員としての右のような心得は専従者にとつては当然のことであるしまた一般従業員にとつても勤務時間中に職場を離れて飲食してならないことはこれまた当然のことであるとはいえ、夜間の警備という勤務はその性質上職場を離れて飲食するという誘惑は大きく、また訴外人のように極く稀にその勤務に就く者には右のような心得は必ずしも充分に会得されているとは限らないから、管理者としてはこのような代務者に対しては時に応じ右の点の注意を喚起しておくことが――それをしないことが監督上の不注意とまではいえないにしても――好ましいというべきである。)

(三) 訴外人は日頃苗穂駅構内において貨物積卸の作業に従事していたが、その際同構内において、時には直接の上司たる班長の指示により時には自発的に、その運転免許を有しないのにもかかわらずフォークリフトを運転操作し、同支店の管理者においてはこのような実状を知りながらこれを黙認していた。また訴外人は職務上貨物運搬用の自動車に上乗りすることが多かつたが、そのような際に運転手の指示によりあるいは自発的に自動車を若干移動させるためこれを運転させてもらうこともあつたが、このような事態を原告会社の管理者において充分に把握しておらず、従つてこのようなことのないようにとの注意を与えたこともなかつた。また訴外人は昭和四〇年一月頃自動車運転免許を取得するため自動車学校に通い結局試験に合格せず免許取得に至らなかつたのであるが、右は訴外人の意思に沿つていたとはいえ、主として原告会社において運転手が不足しているという事情から免許を有しない作業員を運転手に転向させるべく原告会社がその費用を負担して訴外人に勧めてさせたものである。

訴外人は運転免許を有しないのにあえて運転して本件事故を惹起したのであるが、これは訴外人が当夜飲酒したことによる酒の勢いに負うところが大きいにしても、右のような経過から訴外人が日頃から自動車の運転に多大の興味を持つていたことも大きな誘因であり、かつ右のような無免許運転に関する原告会社管理者の訴外人を含む従業員に対するルーズな監督状況も無関係とはいえない。

(四) 訴外人は昭和三四年一〇月一六日原告に雇用され、その際原告から二人の身元保証人をたてるよう要求され(弁護の全趣旨を併せ考察するとそれは雇用の条件であつたと認められる。)、その際被告藤井と訴外斎藤忠雄がその保証人となつたが、その保証期間が満了するため改めて二人の保証人を立てるよう原告から要求された。

被告藤井は訴外人の義理の叔父(訴外人の母の妹の夫)に当り訴外人が幼時に父を失つたため、その小学生時代から時折訴外人が同被告宅に遊びに来るなどして親密な関係にあり、訴外人が中学を卒業して、就職するようになつてからはいわば父親代わりとして就職先の決定につき相談に乗りあるいは就職先を斡旋するなどの面倒を見、訴外人が原告に雇用されるに当つてもその相談に乗り、このような関係から訴外人に乞われると積極的にその身元保証人となり、同様にして本件身元保証契約を締結するに至つた。そして同被告は訴外人の性格や原告会社における職務内容についても充分に了知し、勤務状況についても日頃から訴外人より話を聞き、訴外人の勤務上の問題が生じたときにはその都度原告会社に赴いて上司と連絡をとり訴外人の職場への安定に尽力してきた。また同被告は訴外人が時折警備員の代務をしていることも本件事故前に知つていたし、訴外人が自動車学校に通つたことも知つていたが、ただ訴外人が前示のようにフォークリフトを運転したり時折自動車を動かしているというようなことは知らなかつた。

(五) 訴外人は右のとおり最初の身元保証の期間が満了するため昭和三九年初め頃原告会社から改めて二人の身元保証人をたてるよう要求されたが、その際うち一人は同一市町村居住者であることを要するとされ、また雇用当初保証人となつた前記斎藤は既に所在が判らなくなつていたため、近隣居住者に保証人になつてもらう必要があると考え、近隣に居住しその妻と訴外人の母との間に往き来のある被告に身元保証方を訴外人の母と同道して依頼した。

ところで被告寺岡は訴外人宅から2.300米の近隣に居住していたとはいえ、訴外人の顔を知る程度で直接の交際はほとんどなく、その妻と訴外人の母との関係もただ近隣の付き合いという程度にすぎなかつたから、訴外人の性格や職務内容もほとんど知らず、そのため一応は訴外人からの申入れを拒つたが、訴外人らから「近所に居住している人に一名保証人になつてもらわなければ会社に入れない。あなたに一切迷惑はかけないから判だけ貸してくれ。」とたつて懇請されたため、同被告は身元保証契約の効果などについて深く思いを至すことなく、訴外人らの言うままに自己に法律上の責任がかかることはあるまいと軽く考えてこの申入れに応じ、訴外人が持参した身元保証誓約書用紙の身元保証人欄に署名押印して本件身元保証契約を締結するに至つた。

その後本件事故に至るまで原告会社から同被告に対する一度の連絡もなく同被告から原告会社に連絡したこともなく、また訴外人は右契約締結後一年余にして札幌市に転居したが、その後は同被告と訴外人との交渉は全く絶え、従つて同被告において訴外人の勤務状態等を知ることも全く出来なかつた。

(六) 原告は、本件身元保証契約締結に当り専ら訴外人を通じてこれをさせたのであり、また被告らに保証人調書を提出させているが同調書には各被告の月額報酬が記入され(特に被告寺岡の月収の記入は一万四、七〇〇円にすぎない。)ているだけで、原告において被告らの資力につきそれ以上の調査をしていない。(この事実によると被告らの身元保証およびその賠償能力は右契約当時原告にとつてさほど重要視されていなかつたものと窺われる。)

(七) 被告藤井は洋服仕立業を営んでいるが、その収入は現在月五万円程度で妻と就学中の子二人を養育し、不動産や貯蓄など特別の財産もなく経済的な余裕はない。

(八) 被告寺岡は郵政省に勤務する公務員で、月収は二万六、〇〇〇円であつて、妻と子二人を養育し、親の家を借りて居住し、自己の資産は特になく、経済的余裕はない。

以上のとおり認められる。

また前認定のとおり、本件事故における訴外人の責任原因は過失にすぎず、その過失の程度は極めて重大というべきではあるけれども、被用者が使用主に対し損害を加うべきことを意図して行為した場合と比較すれば、身元保証人の賠償額を定めるに当つて大きな差異があるものというべきである。

さらに、現代の社会における企業活動が高度に発達した機械設備を駆使しそれと被用者とを結びつけることにより大きな利益を収め、その反面として被用者の一個の不仕末が企業に対し膨大な損害を蒙らしめることともなつている社会構造に鑑みれば、このような構造にも基因する企業の膨大な損害の多くの部分を資力に乏しい身元保証人の負担に帰せしめることは、損害の公平な分配の原理にもとることになろうことをも併せて考える必要がある。

以上の諸事情その他本件にあらわれた一切の事情を総合斟酌すれば、本件につき被告両名の身元保証人としての責任を全免することはできないけれども、その賠償すべき額は、被告藤井につき金一〇〇万円、同寺岡につき金二〇万円と定めるのが相当である。

三、ところで、被告両名の本件身元保証の責任は前示のとおり連帯の関係にあるけれども、裁判所が一切の事情を斟酌して被告毎にその賠償すべき相当な額を定め(右の事情は被告毎に異るからその賠償相当額が被告毎に異るのは当然のことである。)、その結果被告両名の賠償額を合算しても原告の蒙つた全損害額(四二五万円)に及ばない本件のような場合には、被告両名は各別に原告に対しそれぞれの責任額を支払うべき義務を負う(即ち原告は被告両名から合計金一二〇万円を得ることができる)ものと解するのが相当である。(もしこれを被告両名の合算額金一二〇万円につき被告両名が連帯してその支払い義務を負うものとすれば、一切の事情を考慮して各被告の賠償すべき額を定めた意義が没却され被告らに不当に重い義務を負わせることとなるし、他方被告藤井に金八〇万円につき単独債務を負わせ残額金二〇万円のみについて被告両名の連帯債務とすることは、これまた不当に被告らの責任を軽減することになつて、いずれも相当でない。また仮りに右のような考え方が妥当しないとしても、前示諸般の事情を考慮して、原告に対する被告両名の義務の関係につき右のように定めるのが相当である。)(浜崎恭生)

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